遅延線

Wanderlust不定期日記の2006/Jun/1より

アナログディレイで使われてるBBDって、クロックによって入力電圧を保持してバケツリレーをするわけだから、時間の離散化をしてるってことにならないけ?

会社で見て家に帰って答えようと思っていたら、Chuckさんに先を越されました。チクショー(笑)。Chuckさん朝が早いからなぁ。いや夜が遅いのかも…。
現在の人類のテクノロジーでは時間を自由に操作できませんので、信号を遅らせたければ、時間上の信号を空間上の信号に変換してしまうしかありません。いわゆる遅延線です。しかし物理的な振動は大抵の場合、人間の聴覚に比較するとあまりにも早く伝わってしまうため、実用的な遅延を行うのは大変です。きれいな音質で人間の耳にはっきりわかる遅延となるとなかなか困難なのです。昔NHKNHK BSを並べて映しているのを見て、
「みろ、光速は有限だ」
と笑ったことがありました。しかしこれは遅延量が一定です。アナログ信号の任意遅延となると大変ですね。
聴覚の縛りをなくすと遅延線には面白い応用例があります。表面弾性波フィルタは、その例といえるでしょう。これは結晶表面を走る弾性波を使ったフィルタです。表面弾性波は圧電結晶の上に電位を発生します。逆に電位を圧電物質に作れば表面弾性波が現れます。表面波の速度はそこそこ扱いやすいため、結晶上の然るべき点に電位を与えてやると、別の点からはその距離に比例した遅延量の信号が得られます。
そ・こ・で

  1. FIRフィルタを設計する
  2. h(x)の各係数に比例した長さの電極を考える
  3. その電極をサンプル時間Tに相当する間隔で圧電結晶上に形成する

と、アナログFIRフィルタが出来ます*1伝達関数は不連続ですが、中を通る信号は連続なので信号のエイリアスは発生しません*2
遅延線はなかなか味わい深い歴史を持っており、かつては水銀遅延線メモリなどというものがコンピュータの主記憶に使われたこともありました。SAMですね。
以上、最後まで余談でした。

*1:無論、話はそれほど単純ではないですが

*2:伝達関数に何が起きているかを考えることは興味深い