ラヴェル、ノッコ、Perfume

「Hi-Fiって、なんに忠実であるべきなんですか?客席で聞く音ですか?指揮者が聞く音ですか?演奏者が聞く音ですか?それともマイクの位置の音ですか。エレキギターの場合、ピックアップが拾う音じゃないですよね。どの音を忠実に再現すべきなんでしょうか」
「レコーディング・エンジニアが作った音ですよ。」

上の会話は昨年のET2007のあとの飲み会で特に印象に残ったものです。問いを発したのは私。答えてくれたのはChuckさんかAさんケンさん。意表をついた答えだったのが頭にこびりついている理由でしょう。あっという間に3ヶ月経ちました。
先日、リッピングしたラヴェルボレロを何の気なしにAudacityで見てみました。何百万回も言い尽くされているように、全体がひとつの長大なクレッシェントで包まれるこの曲は、波形も見事な矢じり型になります。が、最後にあっと驚く波形が。
飽和しています。
レコーディングの日付を見ると50年代。プロ用機材と言えども、当時の物ではこれだけのダイナミックレンジで出だしの小さな音を収めるには仕方が無いのかな、というのがそのときの感想です。なにしろ最初の数小節はSNが3dB程度です。雑音の海におぼれかかってます。ちなみに同じボレロでも最近録音されたものではクリッピングなど無く、最初の極めて小さな音も雑音から気高く距離を置いた音楽を聞かせてくれます。
さて、ちょっと経って今度は手元のレベッカのベストから一曲覗いてみました。Moon。この時代になるとアナログであってもマスターは十分なダイナミックレンジがあったはず。ところが、一部飽和しています。これは機械の制約でしょうか。違うように思えます。ピークが飽和しないようにするには全体のレベルを下げなければなりません。それでは曲のエネルギー感が失われると判断して、飽和を承知でレベルをあげたんじゃないかと思います。ノッコの特徴的な声も一部クリップされています。曲全体波形を遠目に見ると最初から最後までレベルいっぱいに録音されています。
で、さらにちょっと経ってPerfumeのPolyrithm。「オヤジどんだけミーハーなんだよ!」と突っ込まれそうですが、いいじゃないですか。私にだって怖い物見たさってのがあります。
で、こっちも違う意味でびっくりです。声にがんがんエフェクトがかかってる。アイドルなのに声にエフェクトがかかっているのって、思いつくのは中森明菜にあったくらいです*1Perfumeに関してはあちこちで暑苦しいくらい語れていましたが、その気持ちも分かります。アイドルって女の子そのものに価値があるのに、その声いじってる。それも半端ではありません。完全に楽器扱い*2。そしてレベルと来たら最初から最後までべったりと飽和しています。まるで一曲作って総仕上げに全部をエフェクタにかけたよう。なんかもう、サンプリング周波数とかDACの直線性とか言ってるのがバカみたいです。
「レコーディングって、それ自身がひとつの表現なのか」
と、3ヶ月前の会話の意味が少しだけ分かったような今日、このごろです。

*1:古い

*2:アイドル「Perfume」が楽器扱いされている一方で、ついにアイドル扱いされる楽器「初音ミク」が現れたってのが2007年だったんですねぇ