ドライバとノウハウ

Fenrirさんのblogに、月探査衛星「かぐや」のコンデンサ逆接に関する考察

最高の条件下でおきた些細なミス。よくある話で、結局のところ環境に介在した要素、すなわちヒューマンファクターこそ今回のミスの原因ではないでしょうか。つまるところ、このミスを犯した人間に、コンデンサの逆接がいかに危険なものであるか、という認識が十分にあれば、このミスを早期に予防できた可能性が高いと考えています。

アメリカが月に人間を送り込むときに徹底的に行ったことのひとつに、信頼性の向上があります。それは機械の信頼性を上げるために設計、さらには設計をする人の心理にまで踏み込んだ信頼性向上でした。アポロ計画に関しては当時最高の技術を持ってしても到達不可能な目標に向けて、莫大な国家予算が投入された結果、航空宇宙に限らず多くの分野でアメリカが大きなリードをとるためのテクノロジ・ドライバとなりました。
翻って、現在日本の電子回路のテクノロジ・ドライバとなっているのは、航空宇宙ではなく民生用電子機器です。たとえば、組み立て時にアルミ電解コンデンサ*1の逆接を防ぐなら、
コンデンサのシルクに、電解コンデンサのマイナス側のマークを印刷すればいい」
と思いつきます。組み立て時にコンデンサ自身のマイナスマークと合わせればいいのです。が、こんなことを思いつくのはアマチュアと少量生産に携わる人とおっさん達くらいです。テクノロジー・ドライバである民生用電子機器では、シルクに有効な情報を盛り込めなくなるほど基板上の部品集積度が上がっています。組み立ては機械が行いますし、設計から組み立てへのデータの受け渡しも電子フォーマットで行われます。逆接の防止は「人間がかかわらない」ことで実現されており、人間が組み立てる人工衛星が、現在のテクノロジ・レベルから大きく遅れていることにさほどの驚きはありません。人間の間違いを減らすノウハウは、民生技術の量産ノウハウとは幾分違うものであるはずですが、それらは大企業ではどんどん失われており、中小企業のおっさん達の力を早く借りておかないとまずいことになると思われます。
人工衛星が民生にフィードバックしうるものがあるとすれば、それは組み立て技術やデバイス技術以外の所にあるのだろうと思います。面白いことになってきました。

*1:今回問題のコンデンサがアルミ電解かどうかは知りません